2013年04月07日

サウジの外国人労働者たち



 最近、サウジの何人かの外国人労働者たちと知り合う機会、あるいは彼らに関する印象的な出来事があった。

 @インド人ムハンマド・ムジーブ

 愛車車(セダン)の車検を取りに行った時、車検を代行してくれる修理工場で会った男。

 車の修理屋であれ、何であれ、こちらでは(残念ながら)まず疑ってかかることが必要。

 下手するとちゃんと直していないどころか、何でもない箇所まで破壊爆弾された上に、ボッタくられることもある。

 これは僕の周囲にいる、車を持っている学生たちに共通した悩みだ。

 本来は知り合いなどを通して、腕と正直さに信頼性がある人に依頼するのが筋だが、そのような状況に恵まれなかった場合、自力で出来るだけ信頼性のおける人を探すしかない。

 その日、車検場の周りにひしめく数あまたの修理工場の内、「オレんとこ来い!」と客引きをかけてきたのが、このムハンマドだった。

 重要なのは車検をちゃんとスムーズに取ってくれ、かつ費用有料がリーズナブルで、時間時計がかからないこと。

 とりあえず、3、4時間後くらいには問題なく車検を取ってやる、費用は700リヤル(日本円で約15000円ほど)だ、と言われた。

 一番最後に車検を取った時には500リヤルくらいかかったので、「高いんじゃないか?」と言うと、600リヤルにまで負けてくれた。

 何事も最後まで見届けないと分からないものだが、このムハンマドには真面目そうな印象を受けた。

 ムハンマドは僕が日本人だと知って、驚いた。

 彼には日本で車の輸出関係の仕事をしている、友人がいるという。ムハンマドも出来れば、彼を頼って日本に仕事しに行きたい、と言った。


 大体時間通りに車検は取れ、車の引渡しのときに、ムハンマドの自宅に呼ばれた。

 4部屋あるアパートの各部屋に、4人ずつ共同生活している。つまり、計16人が住んでいることになる。

 彼のようなインド人だけでなく、パキスタン人、スーダン人なども混在しているらしかった。

 部屋は4人分の寝床を敷いたら、一杯くらいのスペース。

 サウジの外国人単純労働者は、大体こんな環境で生活している。

 家族・親族への仕送りをなるべく増やすため、家賃代などの生活費を削り、かつ異国での孤独で世知辛い生活を、互いに協力し合い、慰め合っているのだ。


 ムハンマドの部屋には、ルームメートのインド人2人が寝ていた。

 珍しい客の訪問で起床した彼らと、世間話。

 ムハンマドはジュースとスナックを買って来てくれた。

 僕は彼らの出身地にも旅したことがあるし、インド人、インド文化などについても多少知っているし、関心がある。南北インド料理にもそこそこ詳しく、ここサウジでも週に最低一度はインド料理を食べている。なので、彼らはこの「サウジ人みたいな格好をした日本人ムスリム」という奇妙な男に尚更、驚いたかもしれない。

 日本に行きたいと言うムハンマドには、一言で言えば「やめておいた方がいいと思うよ」とアドバイスをしたが、実際にはその話題で1時間くらい話した。

 僕が日本に帰国した時には、日本にいるという彼の同郷の友人に連絡することを約束し、彼と別れた。

 別にムハンマドのためとかではなく、日本のような彼らにとって遠い国、困難な環境にあるムスリムと知り合いになりたい、という自らの希望である。

 家族と離れ離れで、外国で仕事しなければならないというのは、サウジでも日本でも大変なことだ。

 それは彼らのような、低賃金の肉体労働だったら、尚更だろう。

 ムハンマドは車検代を更に値引きしてくれたが、その善意を断ろうとしても、決して引き下がらなかった。


 A見知らぬアジア人女性

 2、3日前の夜、子供たちを車に乗せて自宅に帰って来た時のこと。

 車を駐車場に停めよう車(セダン)とした時、アパートの建物の前を、1人の女の子が歩いてきた。

 遠目には、同じ建物に住む外国人留学生の娘の1人かと思ったが、近づいて来るのを見てみれば、大人の東アジア人女性。

 フィリピンあたりの人か。

 そもそも小柄で、洋服姿ブティック、しかもスカートではなくジーパンを履いていたこともあり、どこかの小さい女の子だと錯覚したのだ。

 それにしても、サウジの公共の場でこのような格好で外出する女性など、ありえない。

 最近はリヤドも緩くなったので、特に外国人成人女性ならば、髪の毛を隠さずに外出する人も珍しくない。

 しかし、それでも黒いアバーヤ(首から下の全身を覆う黒い外套)は、誰でも羽織っている。

また、僕の住んでいる地区は、比較的新しく開発された地区で、建物数もそんなに多くないし、車社会というサウジの特性もあいまって、知らない歩行者がいると非常に目立つ。

 そもそも、全身を覆っている女性が1人で歩いても、非常に目を引いてしまうほどだ。


 しかも彼女、子供に言われて気付いたが、靴くつも履いていなかった!


 あまりの非日常的な光景に、頭が少々フリーズした。

 見てみれば、その女性はどことなく、普通ではない様子。

 どこか、やけっぱちな雰囲気を発散している。

 遠く歩き去っていったのを遠巻きに見てみると、持っていた水のボトルと何か別の物を、道路に勢いよく投げ捨てていた。

 怒りちっ(怒った顔)が頂点に達して、ふっきれてしまっているようだ。

 彼女に、何かが起こったのだ。

 悪い奴らに車で連れ去られ、乱暴された挙句に置き去りにされたのか?

 それとも、その付近のサウジ人一家のお手伝いさんだったのが、何かトラブルがあって「家出」して来たのか?

 そのどちらのケースも、十分ありうる。

 特に外国人のお手伝いさんや、その他の労働者の失踪は、よくあること。

 いずれにせよ、女性があのような格好で歩くのは、非常に危険だ。しかも時間は、夜夜である。

 悪い男たちもいるが、あのような「サウジの常識を無視した行動」を大っぴらに取っている女性は、そのような輩の忌まわしい動機に、更なる拍車をかけてしまう可能性が高い。

 その前に何があったのか知る由もないが、別のトラブルに巻き込まれる可能性も十分にある。

 人は自分に近い人に対して、より大きな同情心を抱きやすいものだが、見た目も日本人とそう変わらない小柄な女性だったので、後で尚更心配になった。


 人はいつでも、後悔するような生き方をすべきではない。

 しかし、この時は、何で彼女に声をかけなかったのか、彼女を無事に保護する努力をしなかったのか、後で非常に後悔した。


 B日本でダンサーをしていたフィリピン人


 数日前、子供たちにせがまれて、アイス屋に入った時のこと。

 チェーン店らしきそのアイス屋は比較的近所だが、もうずっと入っていなかった。

 最後に足を踏み入れたのがいつかも、覚えていない。

 そういったわけで、そこで働いている若い男は初対面。

 アイスを注文し、自然と会話が始まる。

 もみあげを長くしているのでムスリムかと思ったが、彼はフィリピン人のクリスチャンだった。

 彼は僕を「インドネシア人か?」と言ってきたが、日本人だと知ると、「おぉ!オレは、半年くらい日本にいたことがあるぞ!」と言う。

 何でも、横浜のゲイバーでダンサーをしていたのだという・・・(彼自身がそういう人なのかどうかは、知らないが)。

 日本の夜の街から、サウジの何かと制約の多い環境へと、180度違うタイムスリップをしてきたわけだ。

 彼はサウジの生活が大変だ、と言ったが、それは彼らのようなクリスチャン、欧米的な価値観をもった人たちにとっては当然だろう。

 今までとは全く違う宗教的制約、生活慣習、人・・・。

 そのストレスは、大変なものに違いない。

 しかし彼らもまた、自国での生活・家族のためにしょうがなく、異国へとやって来た同情すべき人たちなのである。


 僕は以前、その近所のケーキ屋で、彼と同様の境遇のフィリピン人と知り合っていた。

 その若い男もまた、大阪のクラブで1年ほどダンサーをしていた、と言った。

 ただアイス屋の彼と違うのは、彼がその後ドバイ、リヤドと渡り歩いた挙句、ここでムスリムになったこと。


 その話をすると、アイス屋の若者は言った。

 自分の友人にも7人くらい、サウジに来てムスリムになった奴らがいる(サウジで改宗する外国人は沢山いるが、特にフィリピン人は多い)、しかし自国に帰ってから元のクリスチャンに戻ってしまった、と。

 何でも、サウジで「ムスリムになったら金有料をやる」と言われ、ムスリムになったらしい。


 実は僕もサウジにおける、このようなダァワ(布教)にまつわる話は、時々耳に挟んでいた。


 ひどいものだと、目の前で札束を見せびらかせて改宗に誘うケースもある、という。

 一昔前だと、韓国企業のサウジ進出に伴い、多くの韓国人がサウジで改宗したケースがある。

 でも、その後帰国した彼らは今、一体どこに行ってしまったのか、というのが皆の一致した疑問。

 そして現在、韓国に代わってサウジに進出してきたのが、中国。

 そして、数十人単位で「中国人改宗のお披露目」が行われるのは、もはや珍しくなくなった。


サウジ国内で働く中国人248人の合同改宗式



 日本人と同様、いや場合によっては根っからの無神論者・物質主義者も多く、イスラーム文化からも遠縁の中国人が大挙してイスラームを受容することにどこか納得がいかない部分があったが、そのような筋と関係がある中国人ムスリム学生に聞いてみると、やはり「現世的利益」が大きく影響している場合が多く、よほどのフォローアップがない限り、この新たな宗教は彼らの身につくことがないらしい。


 ただ、フィリピン人はイスラームと共通するバックグラウンドを持っていることもあり、比較的容易に改宗し、かつ改宗後に献身的ムスリムになるケースも多い(参照:朝日新聞の過去記事http://news24.2ch.net/test/read.cgi/news4plus/1219453502/ )。

 湾岸諸国でムスリムになって帰国した宗教的なフィリピン人たちが、一種の社会問題視されているほどだ。


 いずれにせよ、このような現象はずっと昔の預言者時代、正統カリフ時代から普通に知られていたこと。

 イスラームに感銘を受けて真摯に受け入れ、努力を怠ることなく、後世まで語り継がれる模範的な信仰者となった者たち。

 イスラームの勢力が強い状況において、現世的利益を得るために改宗した者たち。

 その中にはよき信仰者となった者もいれば、「そこそこ」だった者もおり、あるいはそもそもの意図がイスラームを内部から崩壊させることだった者もいた。

 チャンスと見るや否や、不信仰を公言した者たちもいた。


 この構図の根本にあるものは変わらない。

 自分の信念、生き方の指針に対する「誠実さ」である。

 しかし、この誠実さは色んな意味で、イスラームへと誘う側にも要求される。

 そして「表面的な数字や業績の追求」「行動を伴う同胞愛の欠如」「英知と知識に基づかない情報提供」「フォローアップの放棄」などもまた、宗教に対する「誠実さ」に反するものなのだ。




















posted by サイード at 15:43 | Comment(2) | TrackBack(0) | サウジアラビア日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんにちは。全然関係ない質問ですいません。

とある南米の国で生まれ育ち、現在21歳のムスリム男性です。

両親は日系二世で、私は三世に辺ります。国籍は日本です。日本語は高校まで通った毎週土曜の補習校と中学校二年生の夏に体験入学しただけなので、不自然な部分がありましたら申し訳ありません。

両親は二人とも、ムスリムです。父は改宗、母は日本人とレバノン人のハーフで、ボーンムスリムです。日本との繋がりは日本語や苗字しかなく、家族全員が日本語よりも現地語が得意です。

イスラームもアラビア語も今いる国で学べないわけではないのですが、隣国のスリナムとは違い私のいる国はムスリムが決して多いわけではありません。できればアラビア語圏(可能であれば、母も行ったことのないレバノンですが、何処でも大丈夫です)で学べたらいいなと思います。

日本人や外国人が、たまにサウジアラビアやシリアに留学しているブログや経験談を見かけるのですが、彼ら彼女らはどのようにして行っているのですか。また一定のアラビア語力がないと留学がそもそも出来ないのでしょうか。

留学が全てではないですし、今から出来ることはあると思いますが、アラビア語圏への憧れも強いです。背伸びしすぎているのでしょうか。

よろしくお願い致します。
Posted by 小鳥遊 at 2016年01月20日 08:51
アッサラームアライクム

ご連絡、ありがとうございます。

多くのアラブ諸国が混乱や政治的不安定の中にある中、比較的安心して留学できるのはサウジを始めとした湾岸諸国や、エジプト、モロッコあたりではないかと思います。

留学はアラビア語ゼロの状態からでも可能かと思いますが、もちろん前もって学んでおくに越したことはありません。

普通は、自分の国籍がある国から出願します。提出書類などに関しても、すべて翻訳と共に日本の外務省の認証が必要です。

今お住まいの国でも、アラブ諸国に留学している人たちはきっといらっしゃることかと思います。お勧めするのは、そういった人たちに相談したり、手伝ってもらったりすることです。既に留学している同国人が留学先となる国で手伝ってくれると、アラブ世界では手続きがとんとんと進む場合があります。

もっと細かいこと、立ち入ったことがお聞きになりたければ、以下のアカウントを通して非公開の形でメッセージを下さい。

https://www.facebook.com/sato.saeed.9

http://twitter.com/saeedsato

それでは、ご成功をお祈りしております。
Posted by サイード at 2016年01月20日 16:51
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