2010年12月08日

ジョハー井上とのモーリタニア旅行(2003年5月25〜26日)

5月25日


「オヨーンとその郊外」


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オヨーン郊外の奇岩。そこに張り付くサイードと
下でお茶を作るアブー・ナーヂー


 朝バザールで昼飯用のパスタや肉や野菜、ジュース類などを買って、町から2,30キロ位離れた郊外へ。奇岩が所々に立ち並ぶ壮大な景観。僕は岩山によじ登ったり、洞窟を探したりするのに夢中になった。この性向は幼少の頃から全然変わっていない。

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そびえ立つ崖に並び立つ
井上さんとアブー・ナーヂー


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崖を降りる一行


 アブー・ナーヂーは今日、車に調理器具を積んできていた。今日のお昼はピクニックである。大きな岩山の中腹にある洞窟で料理を始める。ラクダを連れて通りかかったベドウィンの男も自己招待された。まず、アブー・ナーヂーがラクダの焼肉を作る。依然腹にダメージが残っていたが、脂っぽくておいしかった。続いて僕が同じくラクダの肉をベースに、にんじん、トマトなどの野菜を加え、パスタを作る。これまたギットギトになったので井上さんどころか僕にもヘビーだったが、まあおいしく食べれた。その後はマンゴーを食べたり、ベドウィンの男が造るアーターイを飲んだりして休憩。

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岩山の中腹にある洞穴でランチタイム


 地平線に囲まれたこの雄大な風景だが、とても静かで物音1つしないのが不思議だった。見渡す限り動くものもないので、時も空間もずっと太古の昔から止まってしまっているかのような錯覚を覚える。一面まぶしい光に包まれた外界の白っぽい風景は、暗くて涼しい洞窟の中から見ると、まるで映画館の観客席から見るスクリーンのような視覚的効果をもって目に映る。光が強ければ強いほど、影も濃く見えるのだなあ、と感じる。都会とは正反対の風景。あのように狭くて建物が密集し、人の密度が高い所にばかりいると、人は視界も心も狭くなってしまうんではないだろうか。ここにいると都会生活がどれほど雑音に満ちてかしましく、人々はせき立てられ、物質的にも精神的にも汚染されているのかが分かるような気がした。

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オヨーン郊外の壮大な風景


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広大な自然の昼下がり。強烈な日差し。
洞窟。物音一つない不思議な静寂。


 夕方頃ホテルに戻る。ここの夕飯はバカ高くおいしくもないので、今晩は井上さんと外食に出かけることに決定。只、問題はこのホテルが中心街から徒歩で30分以上の郊外に位置しており、しかもタクシーなど殆ど見つからないことだった。外出していたアブー・ナーヂーの携帯に連絡してみたが、僕のが調子が悪いのかつながらない。ジョハー井上さんのアイデアで、ホテル脇にある彼の行きつけの売店のオバちゃんに頼み、メシを食わせてもらおう、ということになった。食堂とはまるっきり縁のなさそうなごく普通の売店である。随分と大胆なアイデアに、食事時に抜き打ちで一般のお宅を訪れ、メシを味見させてもらうテレビ番組のヨネスケの図々しい姿が脳裏に浮かんだ。僕は余り気が進まなかったので、交渉を井上さんに任せる。確かにその黒人系のオバちゃんは井上さんの言う通り、とても気の良い人である。金などいらない、と夕食の残りらしいクスクスを持ってきてくれた。具無しで、冷たそう。ちょっと失礼になったが、やっぱり断らせてもらう。ヨネスケ、易々と撤退。

 さて、しょうがなく僕と井上さんは暗い夜道を市街地に向かって歩き始めた。街灯はもちろん、車の通りも殆どない。暫くしないうちに前方から見覚えのあるハイラックスが現れ、停まる。アブー・ナーヂーだ。グッド・タイミング。すぐ切れてしまった電話を不審に思った彼が機転を利かし、僕らの身を案じてやって来てくれたのだった。街のレストランへ行き、クスクスを食べる。昨日ホテルで食べた9分の1の値段で、ずっとおいしいのが食べれた。

5月26日


「ヌアクショットへ無事帰還」


 昨夜も外の中庭で寝る。この方が蒸し暑い室内や冷房の利いた部屋で寝るよりずっと快適だ。

 朝、オヨーンを出発。郊外の奇岩脇で朝食。ロック・クライミング好きにはたまらない岩山がゴロゴロしている。登りたかったが、時間がないのと崖の険しさと高さから言ってかなりの危険度のものばかりだったので、早まるのはやめておく。また例のハイラックスらしい動物を絶壁の高い場所に見つけた。これで3度目だ。

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道端でのティータイム(ジョハー井上氏撮影)


 ところで、この国の特色の1つとしてロバがとても多いことが挙げられる。ひょっとすると、世界中でも人口に比してロバの頭数が最も多い国の1つであるかもしれない。町中の繁華街から田舎まで至る所にその姿を認めることができる。主に荷役を担うが、フリーのロバたちのほうが圧倒的に多い。町でも田舎でも放し飼いにされており自由に歩き廻っているが、果たして全てのロバに特定の飼い主が存在しているのかどうかよく分からない。特に田舎の方では行動範囲が広いので、野生だか家畜だか分からないような何もない所にまでその姿を認める。何故かアスファルトが好きらしく、暑いだろうのに道路によくボケーッと突っ立っている。アブー・ナーヂーによれば道路で立ったまま眠る性向があるらしい。また余り活発でなく、じっとしているか、動く時もノロノロしている。怠け者と呼ばれ、こき使われ、ひっぱたかれる惨めな存在。大きな耳を立て、目はいつも伏し目がちで、体の割に大きな頭を常にうつむき加減にしているのが哀愁を誘う。楽しいことなどこの世に1つもないよ、といったペシミスト風である。そして突如、何の脈略もなさそうな折に〜預言者の伝承では「あなた方の見えないものを見ている」時ということだが〜物凄く大きく耳ざわりの悪い悲痛な叫び声を上げる。もしかすると不幸な生活の中の悲しみや苦しみを時々こうして解消しているのかもしれない。この動物、とても僕の興味を誘う。時間があったらちょっと研究してみたい。

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旅の終わり近く、ヌアクショット近郊の砂丘で


 昼前にはキーファに入り、以前入った同じレストランでまたスパゲッティーを注文。井上さんは料理が来るまでまた1人でバザール散策に出かけ、帰りはロバ車に運ばれてやってきた。絵に描いたようなジョハーだ(ジョハーは小話の中でよくロバに乗っている)。この人、本当に活発である。僕はといえば、ここに限らず日本でも繁華街や祭りなどのゴミゴミした所が苦手であり、しかも余り社交的なタイプではない。井上さん、ヌアクショットにディスコがあると聞き、「行きたい。」と言い出した。僕は宗教的規範からも、そして自分の性格上から言っても、そのような場所には同行することは出来ない。それで、大体の場所だけ教えて、後は自分で行ってもらうようにする。井上さんはかなりアラブ諸国を廻っているが、時々「ディスコに行ったりしないの?」とか「酒、飲まないの?」とかいう言葉が出てくるのを見ると、どれだけ多くの非宗教的なアラブ系イスラーム教徒が多いか一目瞭然である。ここから見ても決してアラブ人であるからといって、また、アラビア語を解するからと言って、その思想や行動がイスラームといつも関係があるわけではないことが分かる。アラブ=イスラームという認識は必ずしも正しくはない。アラブのキリスト教徒やその他の異教徒、無神論者だって存在する。ちなみに飲酒はイスラームの「6信」の1つクルアーンの中で明確に禁じられ、更に、クルアーンの次に法的判断の資料となる預言者の伝承(ハディース)によって、酩酊を催させるもの全ての禁止、酒の売買やそれに関わるあらゆる仕事の禁止が裏付けられている。一般的な形のディスコなどはクルアーンやハディースに直接言及されているわけではないが、その意図や環境が人に及ぼす倫理的悪影響などを考慮しても、決してイスラーム法的見地から合法と見なされる事はないだろう。ただし、これらのことを犯しているからといってイスラーム教徒でない、ということではない。イスラーム教徒に生まれただけでイスラームに無知な人も多いが、イスラームにおいて無知から犯した罪や規律の違反は基本的に許される。誰でも過ちを犯したり忘れてしまうこともあるし、強制されてどうにもならない状況に陥ることもあるだろう。また、これらの宗教規律はイスラームにおいてその信徒にのみ課されたものであって、それ以外の者たちの自由を拘束するものではない。この点イスラーム教徒は異教徒に理解を示さねばならないし、イスラーム教徒と接することの多い異教徒も彼らの基本的な宗教規律を知っておく必要があるだろう。

 さて、途中何度か休みながら希望街道を西へ西へとひたすら走る。広大で静かで無味乾燥な風景は、何か別の惑星を連想させるところがある。特に夕暮れ近く。

 ヌアクショット近郊では、連なる綺麗な砂丘が道路の北側に時々出現する。夕暮れどきには赤い光を放ち、なめらかな曲線に縁取られた光と影のコントラストが非常に美しい。旅の終わりも近づいたことで、日が沈む前に砂丘の上で記念撮影した。

 首都に入ったのは夜も深まる10時頃。地方から来るとやはりここは花の大都会、メトロポリタン・シティーである。そのまま真っ直ぐアブー・ナーヂーの家に招待され、夕食をご馳走される。魚と野菜ベースのご飯の大皿を皆で囲んで食べる。とてもおいしかったが、女性たちも同席し一緒の皿で食べたので、こちらで初めての機会に少々戸惑った。今晩はもう遅くなっていたので、井上さんのホテルに一緒に寝かせてもらう(完)。
posted by サイード at 09:15 | Comment(0) | TrackBack(0) | モーリタニア日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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